ひまわり8号に迫る危機
なるほど、ひまわり8号をめぐる状況が、ようやく見えてきたような気がする。
この懇談会の第1回会合に関する資料からは、ひまわり8号が抱える根本的な問題が行間から伝わってきた。
まずはざっと、ひまわり8号に関して公表されたスペックをまとめておこう。おおむねひまわり8号?で予想したのと同じようなスペックである。
- 可視は3chでカラー撮影が可能。解像度は0.5km。
- 赤外は13chで解像度は2km。
- 全球の観測時間は10分。
上記の数値は米国および欧州の次期静止気象衛星のスペックとも近く、世界的な標準に合わせるとともに製作コストの低減を狙ったものだろう。余談だが、気象庁の資料に次期衛星の名前が堂々と「ひまわり8号」「ひまわり9号」と書かれているので、もはや気象庁の静止気象衛星の名称が「ひまわり」以外になることはなさそう。
さて報告で興味深かったのは、実はそれ以外の部分である。ひまわり8号?のエントリでも取り上げたが、気象庁からは「ひまわり8号」に関して以下のような問いかけが既になされていた。
- 気象観測ミッションと他のミッションの相乗りの可能性
- 静止気象衛星の観測機能の格段の向上により、従来の気象庁での利用のみならず民間を含めた新たな分野への利用の可能性
- 民間における静止衛星の整備・運用のノウハウの蓄積を踏まえ、静止気象衛星の整備・運用における民間活力の活用の可能性
一読したときは「そんなものか」という印象しかなかったのだが、今ごろようやく気づいたのは、これらが実はすべて同じことを言っているのではないか、ということだった。それは、身も蓋もない言い方をしてしまえば、
金がない
ということである。
例えばこれまでの気象衛星「ひまわり」の経緯というページには、これまでどのような経緯をたどって気象衛星が打ち上げられてきたかがまとめられている。
- ひまわり1号~2号:科学技術試験衛星だったため、科学技術庁が経費を100%負担(気象庁ゼロ%)
- ひまわり3号~5号:科学技術衛星だっため、科学技術庁が40-25%負担(気象庁60-75%)
- ひまわり6号~7号:運輸多目的衛星だったため、航空局が70%負担(気象庁30%)
つまりこれまでの衛星は、気象庁以外の省庁が打ち上げ費用を負担してくれていたので、なんとか打ち上げが継続できていたということだ。ところが次期のひまわり8号~9号では、どうもそのようなスポンサーがまだ見つかってないらしい。もちろん気象庁の予算で100%を負担する打ち上げは相当に困難。国全体が支出削減となっているなか気象庁もその荒波をもろにかぶっており、衛星を2機も打ち上げる予算を確保できる見通しがたたない。
これは困った。さてどうやって打ち上げ費用を工面するか。万が一にも静止気象衛星を打ち上げられないことがあれば、国際的には大恥をかくし、日本はもはや静止気象衛星も打ち上げられない貧乏国とみなされるだろう。しかも「ひまわり」からそれほど遠くないところには、都合のいいことに(?)中国の静止気象衛星「風雲」がすでに観測を始めている。もし「ひまわり」がなくなっても、中国の静止気象衛星を利用させて頂くという選択肢はゼロではないかもしれないが、それでは長期的・継続的な利用に心配がある。
そこで気象庁が考えた方策が、先の3つの選択肢だったというわけである。
- 相乗りできる相手を見つける→割り勘にすればなんとかなるかも。。
- データをもっと多くの人に使ってもらう→利用者が増えればデータの販売で儲けられるかも。。
- 衛星を他の人に打ち上げて管理してもらう→打ち上げ・維持費用を分割払いにできるかも。。
だが2番目については懇談会の委員から厳しい意見もあがっている。そもそも気象衛星データは公共の利益に資するものであり、国際協力に参加する意味でも、無償が大原則なのではないか。また、データを有料で販売すると言っても、データによほどの魅力がないと顧客がつかないだろう。また3番目についても、あまり具体的な見通しはなさそうである。となるとやはり1番目の相乗りスポンサーを探すというのがもっとも現実的なのだろうか。どこも予算不足で苦しい台所事情とは思うが。。
ともかく、静止気象衛星がなくなってしまえば、防災の面では多大な影響が出ることは避けられない。気象庁の資料にも「気象衛星がなくなったら」というスライドがあり、1.台風等の監視体制が昭和30年代に逆戻り、2. 防災気象情報の発表に影響、3. 国際社会に大迷惑、とかなり強い言葉が書かれている。もしかすると10年後ぐらいには、次期富士山レーダーの建設が始まったり、天気予報でおなじみの気象衛星「ひまわり」画像が気象衛星「風雲」画像になったりして(笑)。
まあ、以上の記述はすべて私の解釈なので、実態をどのくらい反映しているのかはわからない。しかし、衛星製作と打ち上げの費用捻出に苦労しているのは確かのようで、この問題がなんとか解決に向かうよう、外野からも応援していきたいものである。
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